JSPICC - 日本小児集中治療研究会

PALS 小児二次救命処置法 (AHA 認定) Pediatric Advanced Life Support

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小児の救命の連鎖と PALS (2004年) Pediatric Advanced Life Support

国立成育医療センター手術集中治療部 清水直樹

 

第11回小児集中治療ワークショップ資料集から (2003年)

I. 小児心肺停止と死亡の原因

 小児の心肺停止は、進行性のショックもしくは呼吸不全の終末相に見られることが多い。その原因は年齢、基礎疾患、発生場所により様々であるものの、呼吸不全かショックの二系統に収束され、最終的には心肺不全に陥って心肺停止となる。呼吸不全の前段階である呼吸窮迫の状態で、またショックにおいては代償性ショックの早い段階で病態の進行を早期に認識し、迅速な治療開始の判断をすることが小児の救急蘇生においては最も重要になる。

 小児救急医療に携わる医師としては二次救命処置だけではなく、ことに外傷防止を中心とした予防医学、現場からの病院前救護のみならず他院からの緊急搬送依頼に備える搬送医学、そして救急蘇生後の小児集中治療医学の充実にまで配慮したい。

II. 予防

 小児の心肺停止の原因は成人のそれとは大きく異なり、心臓以外の誘因によることが多い。乳幼児期の心肺停止のおもな原因は、乳児突然死症候群、呼吸器疾患、異物誤嚥を含めた気道閉塞、溺水、重篤な細菌感染症等があり、1歳以上になると外傷が死因のトップとなる。

 小児外傷を考える際に予防の観点は極めて重要であるが、本邦での努力はまだ不充分である。チャイルドカーシートや自転車用ヘルメットの普及と適切な装着の啓蒙など、小児外傷予防に果たしうる役割は大きい。

III. 一次救命処置(BLS: Basic Life Support)

 呼びかけや刺激に対する反応をみて、なければ大声で助けを呼ぶ。気道を確保して呼吸を確認するが、外傷機転が疑われる場合には頚椎固定を忘れない。異物による気道閉塞の解除は1歳以上には腹部圧迫(ハイムリック法)であるが、1歳未満のときには背部叩打と胸部圧迫を選択する。

 呼吸がない場合は2回ゆっくりと息を吹き込んで人工呼吸を開始し、循環のサインとしての呼吸の再開、咳または体動の出現をみる(医療従事者においては脈拍の有無を頚動脈、1歳未満は上腕動脈で確認)。循環のサインがない場合は躊躇なく胸骨圧迫心臓マッサージを開始する。小児の心臓マッサージでは、胸骨下半を1分間に100回以上圧迫する。圧迫の目安は胸郭前後径の約1/3である。8歳未満であれば人工呼吸1回に対して5回の心臓マッサージを同調して行う。

 8歳以上においてはこの流れに自動体外式除細動器(AED, Automated External Defibrillator)が組み込まれる。2003年7月 ILCOR から AED 適応を1歳まで引き下げる Recommendation がでたが、小児における最初の1分間の心肺蘇生の重要性は、AED のそれを凌駕していることを忘れてはならない。

IV. 通報と病院前救護

 院外発生の心肺停止の現場において、“急いで通報(Call Fast)”すべきか、それとも“まず通報(Call First)”すべきか?成人(ガイドライン2000では8歳以上を意味する)の心肺停止では、原則として“まず通報”することが推奨されている。一方、8歳未満の小児の心肺停止を確認した場合、直ちに人工呼吸と心臓マッサージを始めて約1分間の心肺蘇生を行いつつ、“急いで通報”することを原則としている。それは既に述べたとおり、小児の心肺停止は呼吸原性であることが多いからである。つねに例外はある。成人でも、溺水・外傷・中毒等が原因の場合は呼吸原性の心肺停止が最も考えられるため、心肺蘇生開始後に“急いで通報”することが勧められている。一方、小児でも基礎に心疾患や不整脈の既往がある場合は“まず通報”することを考える。

V. 小児二次救命処置

A. 有効な酸素化と換気

 呼吸不全、ショック、受傷患児の全例において、搬送中も救急部門到着後も“おしみなく”酸素をあたえる。小児の上気道解剖の特性を理解し、必要に応じて肩枕や経口エアウエイを使用して的確な気道確保につとめる。外傷の場合は頚椎保護を続けることも忘れてはならない。

 BLS から引続き、バッグ&マスクでの適正な換気が重要である。各年齢に適した大きさのマスクを準備し、バッグもアンビューのみでなくジャクソンリースを準備して、両者の相違を理解したうえで使用に習熟しておく。小児麻酔、小児集中治療、小児救急に習熟した専門医に引き継ぐまでは、このバッグ&マスクが的確に出来てさえいれば、気管挿管をいたずらに急ぐ必要はない。仮に気管挿管の必要に迫られた際には、これも適正な気管内チューブサイズの知識とブレードの選択が必要である。

B. 血管確保の手技と循環の保持

 小児の緊急時の血管確保には肘静脈や伏在静脈が好んで選択されるが、それでも困難なことが多い。そうした場合は迷わず骨髄内輸液を選択する。この手技の選択肢は、小児科専門医でなくても、適応さえあれば積極的に考慮するべきである。

 輸液製剤は生理的食塩水や乳酸リンゲルなどの等張晶質液が適しており、小児・新生児においても例外ではない。初期投与量は20 ml/kgであり、臨床的再評価を繰り返しながら必要量を追加投与する。

C. 不整脈と薬剤投与、除細動

 心停止におけるアルゴリズムを図に示した。ポイントは、無脈性電気活動(PEA, pulseless electrical activity)の判断を誤らず、モニターだけではなく実際の患者の脈を確認し、積極的な心肺蘇生が遅れないようにすることである。

 小児の徐脈は、すべて病的と考えた方がよい。最も多い原因は低酸素である。呼吸不全やショックの終末期に心肺停止となる直前の状態としてよくみられる。酸素投与や人工呼吸にもかかわらず心拍60以下、または徐脈に伴って循環不全がある場合には、迷わずに心臓マッサージを開始する。この際の第一選択薬はアトロピンではなくエピネフリンであることにも注意したい。

 小児の病的頻脈で最も多いのは上室頻拍(SVT, supraventricular tachycardia)である。洞性頻脈を疑わせる病歴(発熱、脱水等)がなく、1歳未満で心拍220以上、1歳以上で心拍180以上の場合、この SVT を鑑別の第一にして考える。循環が悪い SVT に対しては迅速なアデノシン急速投与(0.1mg/kg、倍量1回追加可能、ATPも同量でよい)を行うが、投与経路が確保できない場合はカルディオバージョンを考慮する(同期させて0.5-1J/kg)。

心停止におけるアルゴリズム図

VII. 最後に

 小児の救命の連鎖を確立するためには、BLS、PALS のみならず、出発点である予防医学の重要性にはじまり、小児緊急搬送や病院前救護を介して、終着点の小児集中治療の充実が不可欠である。

 こうした救命の連鎖の各構成要素の充実により、救命の道が開かれる子ども達が更に増えてくることを願い、小児の救命の連鎖確立のための努力を続けてゆきたい。

最後に

 
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